ローでの民法「基礎事情の錯誤」

ロースクールで学んだ民法の授業を基に書いています。

以下、本編。

「日当たりの良いマンションかと思ったら、そうではなかった」という誤解を基礎事情の錯誤と言うためには?

基礎事情の錯誤取消(民法95条1項2号)の要件は

①法律行為の基礎とした事情についての認識が真実に反すること

②錯誤が重要なものであること

③基礎事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていること

④錯誤に基づき意思表示をしたこと

⑤取り消しの意思表示

だと学びました。

さて、基礎事情の錯誤と言うためには、まず①の要件を満たす必要があるわけですが、良好な日照が得られると思って購入したマンションの一部屋が、案外そうでもなかった場合に、

「良い日照」という基礎事情と、「悪い日照」という真実とでは

食い違いがある!

と言えるのでしょうか。

良し悪しなんてものは、評価です。

人によって違うのです。主観的なものです。

真実というのは、客観的なものです。誰が見ても「その通りだ!」と言えなければなりません。

では、良し悪し、ではなく、有る無し、ならどうでしょうか。

「日差しを遮る建造物が無い」という事情と、「日差しを遮る建造物がある」という真実とでは食い違いがある!

と言えるでしょうか。

建造物の有無は、誰が見てもわかります。

なので、基礎事情の錯誤を論述するとき、日照が良いと聞いていたのにそうでもなかったという事案、カッコイイと思って買ったフィギュアが不細工だったという事案などでは、

良し悪しではなく、有る無しに置き換えて基礎事情と真実の食い違いを説明する必要がありそうです。

真実を知っていたならば意思表示しなかった」なら、いつでも錯誤は重要と言っていいのか?

私たちは物を購入するとき、その物の定価や効用なんかを気にするわけでして、それは高額な商品になればなるほど慎重に判断するものです。

本来、情報収集は表意者側がしっかりと行って、これに基づいて購入の意思表示をする(あるいはしない)のは筋です。

なので、思ってたんと違う!、となっても、それは情報収集の懈怠。

表意者が泣くべきなのが原則です。

ところが、民法は、こうした錯誤に陥った場合であっても契約をなかったことにできるわけですよね。

本来、表意者側が泣くべきであったところ、契約を無しにすることで相手方に泣いてもらう。

そのリスク転嫁を可能にするのが②や③の要件なわけです。

したがって、契約の内容や当事者の属性に応じて、どの程度表意者側に情報収集すべき努力義務があったか、相手方に泣いてもらうのは妥当か、という観点から②③を当てはめていくべきとのこと。

今日は金が1g当たり10000円の取引相場。Aさんはこれ以上の下落を恐れて金を売りに行きます。店に行ってみると、貴金属店長Bは、1g当たり11000円で買い取ると言う。ああ、これは昨日の金相場と勘違いしているなとAさんは思うが、黙っておくことにした。このとき、果たしてBさんの錯誤は重要な錯誤と言えるでしょうか?

確かに、真実が10000円であると知っていたならば、Bは金を買い取ることをしなかったでしょう。

取引に当たっては、1g当たり11000円で買いますよ、と意思表示をしており、これがAB間の共通理解になっていたと考えられるので、③も満たしそうです。

しかし、貴金属店である以上、金相場は日々チェックするべきではありませんか?それなのに、やっぱり取引は無しにしよう、と言えてしまうのはなんだかおかしいような。

仮にBの重過失だとしてみても、AさんはBさんの錯誤を知っていたのですから、錯誤取り消しをすることができてしまう(民法95条3項1号)。

そこで、②や③はリスク転嫁のための規定であるという趣旨にさかのぼり、本件では②や③を満たさない、したがって錯誤取り消しはできない、と述べていく。

(重)過失の水準は事案によって違う

さて、先ほどBさんの重過失を仮定してみましたが、そもそも過失というのは規範的なもの。

なので、過失かそうではないかを分ける基準線は、事案によって異なるとのこと。

Bさんは貴金属店長なのですし、金相場を確認するのは基本ですよね。

これを怠ったのですから、重過失と言っても良さげです。

では、Bは確かに金相場を誤解して1g当たり11000円で買い取ったものの、将来金相場は1g当たり15000円まで上がり、そこで落ち着くと確信していたならどうでしょうか。

Bさんにしてみれば、ここ最近下落気味である昨日今日の金相場など、些細な問題かもしれません。そこに多くの注意を払うべきであったとまでは言えないでしょう。

このように、人や目的などによって、重過失の水準は変化するということを、忘れないようにしたいと思った私でした。

さいごに、重過失の定義を共有しておきます。

95条3項柱書における重過失とは、表意者の職業、行為の種類、目的などに応じ、普通になすべき注意を著しく欠いていること、を言う。

以 上

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